2011年01月13日

破:江北の鷹(3)

婚儀が決まったときの兄のはしゃぎ様は尋常ではなかった。私はそんなに私が邪魔であったのかと少し恨めしく思ったが、兄の本心はそうではなく、長政、という弟ができたことを心から喜んでいるのであった。

その喜びようときたら、、、、
普通は浅井家が準備するはずの支度金を、すべて兄が、それも破格の値段で揃えて浅井に贈るという体であった。

「まるで、市様が後家扱いじゃ。」

木下がそういって嘆いたそうだ。

◇◇◇

私の心中などまるでお構い無しに婚儀の支度は着々と進められた。
いよいよ嫁ぐ日がやってきた。

「市、長政はたいしたやつじゃ。あの大胆さ、あの聡さ、あの忠義さ。
 この信長、よき弟を得て、これから天下(てんが)はおもしろうなるわ。
 市、お前は浅井と織田を結ぶ鎹(かすがい)じゃ。しかと務めよ。」
「はい、、、兄上」
腑抜けのようにぼんやりと兄を見上げる私をいぶかって、兄は言った。

「どうした、市、よもやいやとは申すまいぞ。」
「滅相もございません。」
「ならばよい。」
兄の声は強い。その声が私には優しかった兄とは別人におもえた。
「では、どうぞ兄上もつつがなく。」

深く礼をして兄の元を辞すると、そのまま侍女たちにさらわれるように私は輿へと乗せられた。
輿は苦手だ。動けず、風も感じず、自由に見ることもままならず。
閉じ込められたかごの中でただひたすら揺れに耐えて進む。
馬にでものっていけたほうがどんなにか早く、気が楽かしれない。
けれどそれはかなわなかった。

「自ら馬に乗りやってくる女子がどこにおるか。」
馬に乗って行きたい、という私を兄ですら笑って相手にしなかった。
それくらい許してくれる、兄上だもの。
そう思っていた私の期待はあっさりと裏切られた。

私を乗せた輿は静かに城をでてゆく。
兄上、、いよいよお別れなのですね。あなたは、、、私無しでやっていけるというのでしょうか、、、。わかってはいたことだ。けれどまだ頭がついていかない。自分も、兄も、別れてやっていけるのか、、、。

似たもの同士、一心同体のように過ごした同士、唯一のお互いの理解者であるのに、、、。所詮、、そう思っていたのは私だけなのか。。兄とは一回りも離れている。それは埋められないのだから。
posted by 臥待月 at 00:00| Comment(0) | 市の巻 明日紡ぐ者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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