2011年02月03日

破:明日を紡ぐ(1)

思えばどう考えても失態をさらしているのは私のほうだった、、、。
このやりとりで、私は何か力が抜けた気になった。ある意味開き直ったのかもしれない。
長政がきてもあまり力んで迎えることもなくなった。

◇◇◇

それからはぎこちなさが取れた分、長政が訪ねてくるときの話が穏やかで弾むようになったと思う。今までは聞く一方だったのが、私のほうからも話をしたり、続きをせがんだりすることが多くなり、長政の一方的な話から会話とよべるような体裁になっていった。

話をしているときの長政の楽しそうな眼、戦国を感じさせない穏やかな表情。全てのものを慈しむような話しぶり。私はいつしか、この時間に安らぎを見出すようになっていった。そのうち話題は表面的なものから、かつて私が兄としていたように、お互いの人生観を語るような深いものへと変わっていった。


あるとき長政は語った。昔心ならずも長政に嫁いできた少女の話。長政にとっては心に沿う婚儀ではなかった。少女の父親は浅井が心ならずも従っていた主の臣下であり、婚儀は浅井を佐々木六角氏の配下にするに等しいことだった。

少女は自分の立場を心得ていた。決して望まれていないことも。
形ばかりの夫婦となり過ごす日々が始まった。少女はそんな中でも健気に凛として生きていたという。その頃は長政のほうが人質あがりの立場であり、婚儀も小谷ではなく主である佐々木六角氏の観音寺城内で行われたという。姫としては実家で婚儀を挙げるようなもので、心細さは嫁いできた市よりよほど少なかったであろう。

しかし。

「寂しそうな表情に胸が痛んだ、、」と長政はいった。だからこそ「決して関わらぬ、一切手を出さぬ」と思っていたのだとも。
娘は小谷に連れ帰りこの清水谷の屋敷にすまわせた。しかし長政はいつか佐々木六角氏を破り、佐々木の支配から浅井を抜け出させるのだと誓っていた。そしてそのときはこの少女を親元に送り返すときであることもわかっていた。


少女は心清らかな優しい姫であったという。見目もあどけなく美しく、境遇がこんな形でなければ、もっと温かく接したかった、普通に夫婦(みょうと)として慈しみたかった、と長政は言った。

「姫も少しづつ私に惹かれていたように思う。うぬぼれかも知れないが、、、。」
そうも長政はいった。
「抱かないことがせめて、私にできることだった。」
、、そういうと長政はしばらく押し黙った。

「他の女の話などして、すまなかったな、、。」
自分でも気づかぬうちに、不安げに長政を見つめている私がいた。
気づいた長政がそういった。

私の中で長政、が長政様に変わったのはこの頃だったのかもしれない。心のうちを打ち明けてもらえるようになった嬉しさと、昔夫婦であった少女への嫉妬と、目の前の人に感じはじめた愛しさと、、。

私の心は複雑に乱れ始めた。
posted by 臥待月 at 00:31| Comment(0) | 市の巻 明日紡ぐ者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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