2011年01月11日

繖山の天女(3)

こんな別れとなっても、登代はどうしても、賢政への恨みも憎しみも抱くことができなかった。
小谷の浅井屋敷であまり人もよりつかぬ離れにすまっていても、時に聞こえる屋敷の人々の言葉の端々から、賢政の誠実で強く、優しい人柄がしのばれ、賢政が人々から心からが慕われていることが伺えた。

登代は、たとえ短い間であっても、そんな賢政の姿を垣間見ることができて、心から幸せだったと、悔いはなかったと思えた。

あの日。
ついに賢政に召しだされたとき、にはすっかり覚悟ができていた。
そして、今度こそは晴れやかに微笑んで、凛としたままこう答えた。
「殿のおそばにおいていただき、登代は本当に幸せでございました。
 ありがとうございました。」


もう、思い残すことはない。結ばれぬ定めであったけれど、一瞬でも縁(えにし)あったことを、登代には神仏に感謝した。

賢政が長政と名乗りを変えたのは、この直前のことであった。
登代は観音寺城に帰っていった。あとに釈然とせぬ顔の賢政あらため長政を置いて。


―繖山の天女 終―
posted by 臥待月 at 00:33| Comment(0) | 長政の巻 外伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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