2011年02月09日

破:後朝(2)

後日、長政様は私に語ってくれた。元服の夜伽の相手こそ、今側室とされている八重の方様だったのだと。

六角氏は元服の伽も、後に妻とする家臣の娘をと考えたらしい。長政様の父上、久政殿が、お嬢様に失礼当たる、と断固拒否して聞かなかったのだという。代わりに相手を務めたのが、長政様の母上、小野殿の傍仕えをしていた八重の方様だったという。もともと小野殿と久政殿がそのつもりで手元においていた娘たちから選んだらしい。

久政殿も、その後長政様が決して正妻との間に子をなさぬと知っていたのだろう。嫡男の血を、どうしても領内の娘に注ぎたかった。そういうことなのだと思う。

八重の方様は伽の後、ぱったりと観音寺城から姿を消した。六角氏を倒し、独立した後、長政様はその少女を探しだし、側室にしたのだという。長政様らしい、、、、。

私はますます長政様に惹かれて行った。

◇◇◇

今宵も。

背中から抱きしめる長政様の胸がすっぽりと私の背中を覆う。そこから伸びる長く力強い腕が私に絡みつき、大きな掌が、髪を、頬を、唇を、乳房を、下腹を、、、私の体のあらゆる場所を、隈なく蹂躙していく。耳を甘噛みされ、唇で首筋をなぞられ、長い指にふたつの丘の頂を、谷間に咲く花芽を摘み、優しく転がし、あるいは嬲る。息が上がり、汗が滴る。愛しさと、抑えられない自分の嬌声の恥ずかしさにたまらず振り向き、長政様の口を吸う。

鼓動が早いのは、、、息が上がっているのは、、、私だけではないことに気づき、遠ざかる意識の中、幸せに酔う、、、、。浅ましいと思っても、どうしようもなく、夜を焦がれる自分がいる、、、、。


一度気持ちが通じ合ってからは、堰を切ったように、愛しい気持ちが強まっていった。そして私は何度抱かれても、ますます募る愛しさを持て余していた。

この人を命に代えても守りたい。、、、だのに、この人は。

「あなたを、命に代えてもお守りします。」
耳元で囁かれ、身も心も熱くなる。ちがう、、私があなたを守りたい。この身に代えてでも。


通じ合う心、固い絆。私は、長政様と本物の夫婦になったと、確信した。

◇◇◇

こんなに愛されているのに、こと、長政様のこととなると、私は冷静になれなかった。
武家の習い、仕方のないことと思いつつも、長政様と縁を紡いだほかの女性(にょしょう)が気にならないといえば全くの嘘になる。あどけない最初の正室の少女、そして、今も長政様の傍に侍る側室の八重の方様。

しかも、八重の方様はすでに長政様との間に男子を授かっていた。八重の方様は長政様の元服の夜伽で身篭り、すぐに国許に身を隠した。生まれたのは男子だった。長政様に似て、目元の涼しい、礼儀正しく利発な子だった。その子は今、長政様の唯一の男子として大切にこの城で養育されている。傍らにはいつも八重の方様がいる。

こうして長政様のすぐ傍にいるのに、ふと思い出しては羨ましい、と思う自分に気づく。


けれど。


「八重様のお子様は万福丸様というのですね。」
閨の睦言に混ざる私の声は、拗ねていることを取り繕うこともできず。
「ああ」
低く応える長政様の掌は愛撫を止めない。
「猿夜叉君ではないのですか。」
なおもそう問うた私に、長政様がふっと優しく微笑んだ気が、確かにした。
暗くて見えないはずなのに。

「猿夜叉は、俺とお前の子の名だ。」
「あ、、、」
抱きすくめられて、唇をふさがれ、言葉はそこで止まる。

今は長政様に男子は八重の方様との間の万福丸様だけ。だから万福丸様が嫡子の扱いを受けているけれど、長政様は、私との間に子ができたら、その子に家督を継がせるつもりなのだ。正室の子が側室の子よりも優先されるのは当然。それでも、その子のために長政様は自身の幼名である猿夜叉をとってある、ということが、私には嬉しかった。たとえ、自分が浅ましいと思っても。

posted by 臥待月 at 00:00| Comment(0) | 市の巻 明日紡ぐ者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする