2011年02月08日

破:後朝(1)

翌朝。

「姫、、あはは、、あはは、、す、すみません、、。でも、、可愛いですね。」
最初はくっくっとこらえていたのが、すぐにそれでは耐えられなくなり、腹を抱えて笑いだした長政様。傍らでむくれる私。

「あれだけ痛いのを我慢したのだから、授かるものは授かるのでしょう?」
と聞いた私に長政様はしばらく固まり、、、そして思わず吹き出した。

「授かりものですから、そうやすやすと出来るものではないのですよ。
 一回で出来ることもあるし、何回もしてもできないこともある。神仏次第なのですよ。」
「ええっ、、まだあの痛みにたえなければならないのですか。」
思わずそうこぼしてがっかりとする私に対する長政様の答えが、冒頭の大爆笑である。
思わず、きっ、と睨むと優しく囁かれた。

「すみませんね。次はもっと優しくしますよ。少しずつ慣れますから、励みましょうね。」
今度は思わず頬をつねった。つねられてなお笑う長政様。


ああ、、、この人は他に女を知っている。武家の嫡男ともなれば、元服と同時に女も経験を済ませるのが当然だ。兄上もそうだった。もっとも兄はその前に済ませていたようではあるけれど。そして何より長政様には、側室とはいえもう一人妻がいて、すでにかわいい男の子を授かっているのだ。

女はやはり損、、、私はふっとそういう言葉を強く認識した。


けれど。


「すまなかった。」
むくれる私をみて、長政様は少し真面目な顔に戻って、優しく私の髪を撫でた。
「浮かれすぎて、、夢中になりすぎた、、、。辛い思いをさせてしまった。
 女子には辛いばかりのものであろうに。」

ああ、この人は。女の体というものが、、女を抱くということがどういうことなのかよく解っているのだ。胸がかすかに痛むのがわかる。過去にどんな女が、この愛しい人の肌を知ったのだろう。

「長政様は、、、殿は女子に慣れていらっしゃるのですね。」

そんな言葉が口をついて出たのは、やはり嫉妬のせいだと思う。私は、どうしてしまったのだろう。気高くて強い市はどこに行ったのだろう。どうしてこの人は、私からいとも簡単に、笑いや、甘えや、切なさや、愛しさや、喜びや、、、いくつもの感情を引き出してしまうのだろう。どうして私は、この人の前では、こんなにだらしなく、弱くなってしまうのだろう。でも、不思議と心が軽いのだ。

美丈夫で、武勇の誉れ高い浅井の嫡男なのだ。さぞ、たくさんの女を知っているのだろうと思った。兄は次々と娘を呼び込んでは戯れていた。それが武家の男というものであろうと思っていた。

けれど、、、返ってきた言葉は意外なものだった。

「姫、」「市と、市とお呼び下さいませ。」
「、、、市」「はい」
「わかったような振りをしてしまったな。俺は、そなたと八重しか女を知らぬ。
 花を手折ったのはこれが二度目だ。」
「元服の伽だってなされたでしょうに、、、。」
云ってしまって赤らんだ。恥ずかしい、、、。はしたなさ過ぎる、、。長政様に、、殿に嫌われたくない、浅ましい女と思われたくないのに。気高い私でいたいのに。

黙ってしまった私にそっと口付けをくれると、長政様はすっと立ち上がった。白んで明けつつある光の中に浮かぶしなやかな体にまたため息が出てしまう。朝の空気が体を刺す。ああ、、男の体がこんなにも美しく、魅力的なものだと思わなかった。あの胸に、あの腕に抱きしめられたのかと思うと、また体が熱くなる、、、。
posted by 臥待月 at 00:00| Comment(0) | 市の巻 明日紡ぐ者 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする